#恋する海外文学

ゆとり会社員がお届けする海外文学・ビジネス書・洋書の感想ブログ。 Literary Classics and Murder-mystery Book Review from Japan ;)

マーガレット・アトウッド『昏き目の暗殺者』

 

あれが始まりだったのか、あの晩が。

 

 

 

もしこの本にぴったりの日本語は何ですか?と聞かれたら私は少し迷うけれどおそらく「ほのめかす」という言葉だと答えるかな、なんて。良くも悪くも、この本は「ほのめかし」ばかりなのだ。

 

 

これまで色々な本を読んできましたが、この本ほど一行一行、いや一言一言から孤独を感じたことはありませんでした。悲しみや絶望に種類があって、それぞれが色を持つとしたら、藍色かな。深海のような色、なんて表現すればいいんだろう。

 

 

この物語の救いはなんだろうと、読後ずっと考えていました。入れ子構造になっている『昏き目の暗殺者』のモデルが分かった瞬間?リチャードの死が明らかになったとき?
ローラの存在?ここに出てくる人たちがみんな生まれてしまったこと?否。

 

お話を通してローラは世間知らずで自由奔放で何も見えていない、そんな風に描かれますが、果たしてそうだったのか?語り手であるアイリスの方が、本当は何も知らなかったのでは?そんなことを思いながら読んでいたからか、自分の中にあるアイリスに対する感情が刻々と変化していくのを感じていました。


アイリスが何かを変えようと、もう少し、あと少しでいいから立ち上がってくれていたら。最後にあれだけ言えるのであれば、それまでできなかった理由はリチャードやウィニフレッドだけじゃないはず。でもそれを言えるのは、今の私に意識することもない自由があるからなのかもしれません。




アトウッドは、どうしてこの物語を書いたのか、私には最後まで理解するのが難しかったです。でも、きっと彼女には、書かなくてはならなかった見えない理由があるのだと、そんなことを考えています。

 

 

ちなみに本の内容とは関係ないのですが、私がこの本を知ったきっかけは、訳者の鴻巣友季子さんの翻訳本一覧、からなんですよね。鴻巣さんは私の母校の大学院を卒業されており、勝手に私が親近感を覚えてしまったのです。鴻巣さんの『翻訳教室』を読んで、きっとこの方はお優しい方なんだろうなと文章にほれ込んでしまったんです。そこで、鴻巣さんの訳された本を読んでみたい、と思い、クッツェーの『恥辱』や『遅い男』なんかをこれまで読んできました。

本作『昏き目の暗殺者』にこれほど私の心が動かされたのも、鴻巣さんの翻訳のおかげだと思っています。訳すの、本当に大変だったんじゃないかなあ。。

いつか鴻巣さんにもお会いしたいと願ってやみません。

 

 

 

 

昏き目の暗殺者

昏き目の暗殺者