#恋する海外文学

ゆとり会社員がお届けする海外文学・ビジネス書・洋書の感想ブログ。 Literary Classics and Murder-mystery Book Review from Japan ;)

J.C.グランジェ『クリムゾン・リバー』

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不安な夜の闇に生きた年月で 、ぼろぼろになってしまったような。虚しさが、喉のあたりにからみついている。

 

 

★あらすじ

古い大学町周辺で次々に発見される惨殺死体。両眼をえぐられ、両腕を切断され…。同じ頃別の町で起きた謎の墓荒らし。二つの事件の接点は何か?フランス司法警察の花形警視と、いなか町の若き警部がたどり着く驚愕の真相。殺人者の正体は?死んだ少年の墓はなぜ暴かれたのか?「我等は緋色の川を制す…」という言葉の意味するものは?仏ミステリ界期待の大型新人登場

 

 

J.C.グランジェ作『クリムゾン・リバー』を読みました。

 

 

 

 いかにも理詰めの男性的な小説だな、とあらすじ~物語の始めを読みながら思っていました。一見無関係に見える2つの事件が、あることを結び目として交差し始める…。

物語全体の構成がとても素晴らしく(上手すぎて逆にガチガチ?)、この展開を考えた作者は本当にすごいなと思いました。

冒頭でいかにも男性が書く小説、と述べましたが、後半、衝撃の事実に徐々に近づくにつれて高まるニエマンスとカリムの恐怖と絶望の心理描写も素晴らしく、手に取るように伝わってきました。

 

ストーリーや次々と起きる猟奇的な殺人のインパクトが強く、サスペンススリラーの側面ばかりが注目されがちですが、作者のグランジェはこの本で何を描き、何を伝えたかったのでしょうか。

 

少々ネタバレを含みますが、この小説の根底にあるのは、劣った人間を排除し、優れた(ここでは単に頭の良さのみを指すものではなく)人間だけを良しとする、優生思想への痛烈な批判なのではないでしょうか。
優生思想・優生学というと、ナチス(この言葉は文字にするのも憚られますが…)の人種政策がその最たるものと言われたり、福祉国家のイメージが強い北欧諸国で行われていた障がい者への政策など、どうもヨーロッパの思想だと考えがちですが、日本もハンセン病の方々の隔離政策があったり、アメリカでも力を持つ財団が優生学協会への資金援助を行っていたりと、ある時代や地域に特定されるものではない、つまり私を含む誰もが(殺されてしまう3人も、一見私たちと何も変わらない、普通の人なのです。)その思想を持ち得る、ということなんだと思います。

 

もちろん作者のグランジェは、私たち読者にあからさまな教訓のような形ではメッセージを残していません。しかし、この本で描かれた恐ろしい思想の数々について、常に自分自身はどうかと自省することが、この本を読んだ人が担う一つの役目なのではないでしょうか。

 

虐げたものはその事実をいとも簡単に忘れるが、虐げられたものが持つ復讐心は、いつまでも乾かないのだから。

 

 

 

クリムゾン・リバー (創元推理文庫)

クリムゾン・リバー (創元推理文庫)