#恋する海外文学

ゆとり会社員がお届けする海外文学・ビジネス書・洋書の感想ブログ。 Literary Classics and Murder-mystery Book Review from Japan ;)

アンドリュー・ミラー『器用な痛み』

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★あらすじ
18世紀英国。天然痘で両親を亡くした少年は「痛み」の感覚を持っていなかった。数奇な運命をたどり、名外科医に成長した彼を初めて痛みが襲う。ジュースキント『香水』を凌ぐ傑作小説。

★感想
この小説の不思議な雰囲気はどこからくるのだろうと、ずっと考えていました。1600年代、1700年代の空気感はT.シュヴァリエの『真珠の耳飾りの少女』を思い起こさせましたし、特殊な男の子の境遇という面ではP.オースターの『ミスター・ヴァーティゴ』に似た部分もあり。

現代を生きる私たちからすると「歴史」になってしまう17・18世紀は、あの人たちが生きた「今」なのだ。大きく「昔」と捉えて遠くに感じがちな時代を知るには、伝記にならないある人の生涯に、本を媒介にして入ることが1つの手段なのかもしれないな、と思ったりしました。

 

生まれてこのかた痛みを知らないジェームス・ダイアがたどる数奇な運命。わけもわからず見世物にされていた時代も、海軍時代も、外科医時代も、彼は身体的な痛みも精神的な痛みも(人の痛みという意味で)、感じることはなかったのだなあと。

姦通の結果生まれた、という事実だけが彼の特質を作ったわけではないだろうし、その他家庭環境や灰色の時代自体もその一助を担っていたのだろうとも。

 

最後まで読んだあとに、最初に戻ると、考えさせられるものがありました。読み始めたときはこの雰囲気がよくわかりませんでしたが、寂寥感につつまれている理由が、ジェームスの生涯にあったのだと。

 
外科医時代の途中くらいまではよいのですが、ペテルブルグに向かう道中あたりから私は少しついていけなくなり、もちろん最後まで読みましたが、なぜジェームスが突然痛みを感じるようになったのか、がいまいちちゃんとは理解できませんでした…。寒い中出かけていってしまったから?女帝は何か関係がある…?
そしてイギリスへ戻ってきて病院に入院してからも結構な急展開で。最後の最後で落ち着いた描写が見られましたが、そこまではあれよあれよという感じで。
 
と、このように少し難しかったのですが、忘れない小説であることは確かです。