#恋する海外文学

ゆとり会社員がお届けする海外文学・ビジネス書・洋書の感想ブログ。 Literary Classics and Murder-mystery Book Review from Japan ;)

パトリック・クェンティン『二人の妻を持つ男』

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★本の情報

・タイトル:二人の妻を持つ男

・著者:パトリック・クェンティン

・訳者:大久保康雄

・出版社:創元推理文庫

 

★あらすじ

ビル・ハーディングは、現在C・J出版社の高級社員として社長の娘を妻に迎え、幸福な生活を送っていた。ところがある晩、偶然に前の妻、美人のアンジェリカに会った。この時からビルの生活には暗い影がさし、やがて生活は激変し、殺人事件にまきこまれていく……。

 

★名言

彼女はグラスをさし上げ、私に向かって、冷たく乾杯した。

 

★感想

おすすめ海外ミステリーとして紹介されていた本作。もちろん最後まで真相を追い続ける、という推理小説のだいご味は十分に味わえますが、それ以上に文学性が非常に高い作品だなと思いました。

 

この物語は主人公ビルの視点で進んでいくのですが、彼の心情が手に取るようなリアルさで描かれています。別れた妻に偶然会って(本当に偶然だったのかは謎)思いがくすぶる様子、現在の妻ベッシイに対する尊敬と他人行儀さ、妻の父CJに対する恐れと抵抗……。

そして何より、何を話し、何を隠すのか。

 

事件のあと、ますます緊張感の増す人間関係の中で、苦しみもがき葛藤しながらなんとかやり過ごそうとするビルには、男性だけでなく女性も共感できてしまうのではないでしょうか。(私は完全にベッシイタイプの人間なので、彼女の気持ちも痛いほどわかりましたが……)

 

 

ーーーここから先はネタバレを含みますーーー

 

 

このお話の面白かったところは、最後にビルがすべてが明らかになったと思ってポールと話す場面です。逆に鼻をあかされてしまうという。人のことは本当にわからないのだ、と思います。わかっているなんて思いこみにすぎなくて、きっと見えている部分は氷山の一角なのだろうと。これはきっと年月とか、関係性の問題ではなく。

 

また、やっぱり嘘はよくないのか、それとも傷つけないようにする嘘なら許されるのか、そんなところも面白いポイントだなあと思いました。ビルはおそらく本当は取り繕ったり嘘をいったりするのが嫌いな人間でしょう。その証拠に、ベッシイにすべてを話したあと、彼はこの物語で一番と言っていいほど清々しい気分でいます。私も嘘をついたりするのは苦手なので、なんでも打ち明けてしまうほうですが、今回のこのお話は、すべてが分かってしまったから、あの悲劇的な結末を生んだのかな~とも思ってしまったり。

まあでもそれも、ベッシイに感情移入しすぎてしまったが故の、私の間違いなのかもしれません。

 

 

注)このブログでは、カテゴリをアメリカ文学、とさせていただきました。パトリック・クェンティンは実際は二人の人物で(共作を一人の名前で出版)イギリス出身ですが、アメリカで執筆活動を行ったとのことから、このカテゴリにしています。